第9回 公開医療講座Q&A集
「COPD(慢性閉塞性肺疾患)と喫煙の危険な関係」高橋講師 Q&A集
Q | COPDですがタバコが止められません。ニコチンパッチシールやニコチンガム以外に何かいい方法はありませんか。 |
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A | 禁煙はCOPDの発症リスクを減らし、進行を止める唯一の最も効果的で最も費用対効果の高い介入方法であります。 但し、禁煙を実行しても一度でうまくいくことは少なく、再び喫煙を始めることが多いのです。喫煙者は7年~10年の期間をかけて平均3~4回の禁煙の試みを経て、生涯禁煙者になるという論文もあります。これらは禁煙のプロセスあるいはサイクルとして知られており、再発しても繰り返し禁煙に挑戦するように患者さんを励ますとともに、医師もあきらめないようにすることが大事とされています。 患者さんも一度うまくいかなくてもそれが普通であることを理解する必要があります。気長に禁煙に取り組む必要があるのです。 医師に実際に自分の肺機能のデータや高分解能のCTで検出した低吸収域を見せてもらって、禁煙のモチベーションを(動機づけ)高めることも重要でしょう。 |
Q | 喘息とCOPDの違いは何ですか? |
A | COPDと鑑別診断でしばしば問題となるのが気管支喘息です。気管支喘息は肺胞が壊される病気ではなく、気管支が狭くなり、しかもその程度が様々に変化する病気です。しかし、コントロールしていない期間が長くなるとCOPDと同じような症状になります。 気管支喘息の患者さんの中には最大限の治療をしても元に戻らない気流閉塞を有する患者さんがいます。こうした患者さんではCOPDと気管支喘息が合併していると診断せざるを得ないことも多いのです。 |
Q | 県や市においても禁煙対策がとられているようですが、日常一番使用する飲食店において何も検討されていないようです。これはどうしてでしょうか? |
A | 2003年5月に施行された健康増進法は、学校や病院など多数が利用する施設の管理者に対し、受動喫煙防止のために必要な措置を講じるよう規定、施設内を 完全禁煙にするか、たばこの煙が漏れないよう壁で仕切られた喫煙室を設置することが求められていますが、あくまで努力義務で罰則などはありません。 これに対し、松沢県知事は「努力義務では弱く、全面禁煙にすべき場所もある」と指摘。具体的には劇場、病院、学校の受動喫煙対策を強化するため、神奈川県 は公共施設での全面禁煙に向けた検討を始めています。将来的には条例で喫煙を規制したい考えで、その第一歩として、県民を対象に、全面禁煙にすべきと考え る施設などについて意見を2006年12月から2007年1月にかけて募集しました。受動喫煙防止に関する設問の中で、「条例で公共の場所の喫煙を規制す ること」について、「賛成」「反対」を聞いたのですが、1月20日ごろまでは賛成が反対を大幅に上回っていたが、締め切り2日前になって逆転したのです。 ご承知の方も多いでしょうが日本たばこ産業(JT、東京都港区)が社員を動員し反対の"投票"をさせていたことがわかったのです。 このように、公共施設での全面禁煙についても組織的な反対意見が強く出ているのが現状で、飲食店での全面禁煙となるとさらに飲食店の利益が絡むだけに組織 的な反対が予想されるのが現状です。前途多難で時間はかかるでしょうが非喫煙者の命と健康を守る対策の実現に向けて努力するべきと思われます。 |
Q | COPD診断のためCTスキャンを行うと医療費は(窓口で)いくらくらい払うのでしょうか?(1割負担として;70歳) |
A | COPD診断のためCTスキャンを行うのであれば造影剤を使う必要はありません。 当センターの単純マルチスライスCT(造影剤を使わない)では、画像診断管理加算87点、コンピューター断層診断450点を含めてトータル1,738点(17,380円)ですので、1割負担だと1,738円となります。 初診の方ですと、初診料(1割負担で270円)等が加算されることになります。 因みに造影CTの場合は3,467点ですので、1割負担だと3,467円となります。 |
Q | スパイロ検査は簡単に受けられますか?費用は高いですか? |
A | スパイロ検査は簡単な検査です。スパイロ検査は、近年著しく増えている肺の疾患COPDをはじめ、呼吸器疾患の診断には不可欠です。呼吸機能検査室で5分くらいですみます。 スパイロ検査は、検査料160点(肺気量分画測定80点、フローボリュームカーブ80点)と判断材料140点(月一回に限る)計300点の保険点数が適用されます。 費用は、保険適応ですから、1割負担なら300円、3割負担なら900円です。 ただし、初診の方の場合には、初診料(1割負担で270円、3割負担で810円)がかかりますし、画像診断と組み合わせて診断することが多いので、これだけの金額には収まらないと思われます。 |
Q | 1)肺炎球菌ワクチンは再度接種はできないと聞いていますが・・・。 2)肺炎球菌ワクチンを接種してから5年過ぎたらどうすればよいでしょう? |
A | 現在日本では再接種が許可されていません。 抗体価は接種1ヶ月後で最高値となり、その後4年間はあまり低下しません。 5年後にはピーク時の80%にまで抗体価が落ち、以後徐々に抗体価は低下します。しかし、5年目以降も効果は残っています。 また、このワクチンには23種類の肺炎球菌(莢膜と呼ばれる細菌の表面の種類で分類)すべてに対して十分な免疫を獲得できるかは、個人差が大きいと言われていますので、みんなに同じ程度有効というわけではありません。 短期間で再接種を行うと接種した部位での強い副反応が増加します。再接種に関しては5年以上間隔をおけば副反応も減り大丈夫なようですが、日本でワクチンの承認時には、再接種の副作用や接種間隔が不明であったため再接種不可とされたので、現在日本では再接種が許可されていません。 一方、米国ではハイリスクグループについては再接種を行うように最近変わってきているそうです。米国においては普通に免疫能を有する人が65歳未満で接種した場合で、65歳以上になり、かつ前回の接種から5年以上経過した場合のみ2度目の再接種を推奨しています。 将来的に再接種可能になるまで待つしかないのが現状です。 |
Q | 在宅酸素療法は保険適用されますか? |
A | 在宅酸素療法は、保険適応されます。よって、老人医療受給者証や重度身体障害者医療費助成制度も適用になります。 また、保険診療となっていますので月に1回は受診していただくこととなります。そこから在宅酸素療法指導管理料という形での保険請求になります。
(1)高度慢性呼吸不全例 病状が安定しており、空気吸入下で安静時のPaO255mmHg 以下、もしくはPaO260mmHg 以下で睡眠時又は運動負荷時に著しい低酸素血症をきたすもの (2)肺高血圧症 (3)慢性心不全 医師の診断により、NYHAⅢ度以上であると認められ、睡眠時のチェーンストークス呼吸がみられ、無呼吸低呼吸指数(1時間当たりの無呼吸数及び低呼吸数をいう)が20以上であることが睡眠ポリグラフィー上確認されている症例 (4)チアノーゼ型先天性心疾患 ※ 動脈血酸素分圧(PaO2)のレベルについては、60mmHg以上でも労作性呼吸困難の強い患者は早期にHOTを適応すべきではないかなどの議論が残されており、現在病態生理学的な根拠について検討されています。また、病態が安定していることが適応の前提ですが、慢性安定期といえどもPaO2値は変動を示すことがあり、この場合患者ごとのPaO2の代表値は主治医の総合判断によって決められます。 肺高血圧症は慢性呼吸不全患者の重大な予後規定因子であり、早期の長期持続酸素投与は予後の改善に有効です。 一方、酸素投与により動脈血炭酸ガス分圧(PaCO2)が急上昇し、pHが7.3以下になる患者や、PaCO2が70mmHg程度以上に固定して高値である患者では、HOT導入に際し十分に慎重でなければなりません。 |
「よみがえる血管~再生治療」 市川講師 Q&A集
Q | 人工血管の寿命は平均的にどれ位もちますか?再生医療を受けて、毛細血管はどれ位の間増え続けますか?薬はずっと飲み続けますか? |
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A | 人工血管の材料であるポリエステルなどの素材の耐久性は十分あるといわれています。 問題なのは人工血管が閉塞せずにいつまで開存できるかという点です。細い人工血管ほど閉塞してしまいます。臨床で用いている人工血管は私たちの施設では直径6mmが一番細いサイズです。この大きさですと5年から10年程度はもつと思います。 血圧や血糖、コレステロール値など他の要因に影響されるので一概にはいえません。 禁煙を守り正しい食生活をすることが、長持ちの秘訣です。手術後すぐに閉塞してしまう方もいれば10年以上問題ない方もおられます。個人差があります。 私たちの経験では、再生医療の効果は3年たっても継続しているように思います。毛細血管に限った評価はしていません。効果がいつまで続くかを調べることは今後の課題です。 薬の服用に関してはケースバイケースであり一概にいえません。必要があればその都度処方をします。 |
Q | 組織の機能を回復させるということですので、パーキンソン病にも利用できるでしょうか? |
A | アメリカでは胎児脳からとりだした正常細胞をパーキンソン病患者の脳に移植してある程度の効果があったことが確認されています。その他、異種由来の神経栄養因子を産生する細胞の株をカプセルにしてパーキンソンモデルの動物の脳内へ移植することで、治療効果があったことが報告されています。 その他の方法として、パーキンソン病患者の脳から神経幹細胞をとりだし、その細胞を培養して神経伝達にかかわる細胞に分化誘導させ、これをまたパーキンソン病患者の脳へ移植してもどすと、病気が改善することが動物実験で確認されています。 まだ実験段階ですが臨床でも効果が期待されています。神経領域でも再生医療は着実に進歩しています。 |
Q | 内皮細胞を若く保つためにはどのようなことが必要ですか?特に食べ物などについて伺いたいです。(今年4月大動脈解離があり、現在は良くなった者です。) |
A | メタボリック症候群を予防することが重要です。 血管内皮細胞を障害するリスクファクターは 高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙などです。 血管も活性酸素などの酸化ストレスで錆びてしまいます。酸化を予防するためにはビタミンの摂取も重要です。 |
Q | 間歇性跛行は2種類あると聞いていますが、動脈硬化による跛行の方と考えてよいのでしょうか? |
A | 間歇性跛行には動脈性、神経性の2種類があります。 足の動脈が狭窄、閉塞すると筋肉に十分な血液が流れなくなり、必要な栄養、酸素が筋肉組織で不足します。運動するとたくさんの血液を必要とするのに十分な血液が届かず、不必要な代謝産物が残り、筋肉痛が起こり歩けなくなります。この痛みは、しばらく安静にすることで軽快、消失し、また歩けるようになります。この状態を間歇性跛行といいます。 動脈性の間歇性跛行であれば、下肢動脈の拍動は必ず減弱もしくは消失しています。運動により症状は増強し、安静で軽快、消失します。 これに似た症状が脊柱管狭窄症という病気でもみられます。脊柱のなかに脊髄という神経の通り道がありますが、骨の変形や靭帯の異常で通り道が狭くなり、神経が圧迫され神経の血行障害がおこります。そうすると足がだるくなったり、痛くなったり動脈性の間歇性跛行と同じような症状が出現します。 動脈性と違うところは、まず足の動脈に病気があるわけではないので、下肢動脈の拍動をよく触れるという点です。また背骨の神経の圧迫が原因なので長い時間立っているだけでも症状がでます。そのほか下半身の知覚異常や頻尿、便秘などの膀胱直腸障害などがおこるのも特徴です。動脈性であれば運動しなければ症状はでません。 その他動脈性の間歇性跛行とおおきく異なる点が、体の姿勢です。神経性の間歇性跛行では、前かがみになると脊椎による神経の圧迫はゆるくなり、症状が軽くなります。体が後ろへ反ると圧迫が強くなり、症状が悪化します。脊柱管狭窄症のひとは、楽な姿勢である前かがみの姿勢をとるようになります。下り坂のほうが楽に歩けます。また自転車に乗った場合、脊柱管狭窄症のひとはいくらでも自転車をこぐことができます。動脈性であれば筋肉をつかう自転車では必ず症状がでます。 |
Q | 寒いときに手足の指先が白くなる・冷たくなる・しびれる、といった症状があります。検査を受けた方がよいでしょうか。 |
A | 血行不良により手足の色が変化する現象をレイノー症状といいます。気温の変化や精神的緊張で手足の末梢の動脈が収縮して色が変化すると考えられています。原因となる病気があって、レイノー症状を起こす場合をレイノー症候群とよび、原因となる病気が明らかでない場合をレイノー病といいます。動脈が収縮すると血流が減り手足は冷たく白くなり、しびれが出現します。さらに毛細血管に欝血がおこると手足は青紫色に変化します。このあと血流が改善すると手足は赤くなりもとにもどります。気温の低い冬におきやすい症状ですが夏でもクーラーで誘発されることがあります。 レイノー症状をひき起こす病気には膠原病や動脈疾患、血液疾患、整形外科疾患など多くの病気がありますが、なかでも膠原病が原因として最も多く、強皮症、全身性エリテマトーデスなどの病気と関係していることがあります。その他、今回の講演でお話したバージャー病、チェーンソーなどの振動工具を使うひとにおこる振動病や、神経を圧迫する整形外科疾患にもみられます。症状があるかたはまず内科で診察を受けられることをお勧めします。 |
Q | 朝方によく足が「つる」(筋肉が硬くなり痛い。30秒位続く。ふくらはぎ)ので、何か悪い病気ではと思うが、血圧の薬で副作用として「筋肉痛あり」と書いてあるので、降圧剤が原因とも思っています。また、前立腺のホルモン注射、アルコールの飲酒はほとんどないです。もしかすると血管の病気ですか? |
A | 足がつる、こむら返りの原因としては、体内の代謝産物の異常、水分バランスの異常、血漿電解質(ミネラル)濃度の異常、気温の変化、筋肉の疲労などが考えられます。 しかし病気の症状としておこることもあるようです。 下肢静脈瘤、肝臓疾患、糖尿病、甲状腺疾患、脊椎疾患など多くの病気との関連が指摘されています。閉塞性動脈硬化症など血管の病気も考えられます。もし頻繁に足がつる場合には病気が原因となっている場合もありますので内科医師の診察を受けられることをお勧めします。またご指摘のごとく、心臓病や高血圧の治療薬のなかには、薬の副作用として、筋肉痛をおこす場合もあるので、主治医に相談してください。 |
Q | 1)足が冷え、時々手がしびれる。足がこむら返りでしばらく痛くて動けません。どうしたらよいでしょうか? 2)現在、慢性不整脈で、南部病院循環器内科でワーファリン治療中。元来、足は冷え性で寝つきは良い方。しかし冷えて寝付けないときもあります。 足両親指が黒いところあり。起床時にいわゆる「つる」現象が両足に時々発生、しばらく痛みあり。最近、繁くあり。 |
A | 二つまとめて回答します。 一番大切なのは寒冷を避けることです。保温対策をしっかり行い、水仕事はさけ入浴時にはよく温まりましょう。極端な疲労や精神的なストレスをなるべく避け、タバコを吸う人は禁煙することが重要です。 こむら返りの予防は、筋肉を疲労させないことです。筋肉が疲れたらマッサージなどで疲労を取ります。電解質(ミネラル)不足でこむら返りはおこります。正常な濃度を保つために食べ物やスポーツドリンクなどで補充しましょう。こむら返りがおこったらストレッチして筋肉を伸ばしマッサージしましょう。 なにをしても症状に改善がなく悪化するような場合は、原因となる病気がないかどうか医師の診察を受けましょう。 |
Q | 下肢静脈瘤の治療に弾性ストッキングを勧められましたが、目立った効果が見られません。治癒例がありましたらお聞かせください。貴センターで診療を受けておりますが、血管再生治療の話を伺いましたので再度治療を受けたいと思います。 |
A | 軽症の静脈瘤であれば弾性ストッキング着用のみで効果がある場合があります。しかし病気が重症化すると弾性ストッキング着用だけではなかなか十分な治療効果がありません。このような場合は外科的治療法を考えなくてはいけません。 |
Q | 大動脈解離・B型です。治療でステントグラフトは適用できますか?そのとき血管を傷めますか? 薬で大動脈解離を治す研究はどこまで進んでいますか?(海外も含めて) |
A | 解離の範囲や解離、血管の性状、蛇行の有無などステントグラフトが適用できるかどうかは個々のケースで判断します。血管のなかに管を入れ、その中からステントグラフトを血管のなかに放出させます。血管の外傷、破裂、血管のなかの血栓やコレステロールなどのごみが他の血管に流れ飛んで行ってしまう血栓症、塞栓症などがよく知られた合併症です。 現在、薬では大動脈解離は治癒させられません。血圧の降圧療法をしていれば自然治癒はあり得ます。 |