アスベスト関連疾患
アスベスト関連疾患とは?
アスベスト関連疾患とは、アスベスト(石綿)の吸入により発症する呼吸器疾患のことです。
アスベストに関連する呼吸器疾患の多くは、アスベスト暴露から何年、何十年も経ってから出現するため、過去の職業歴などを振り返ることが大切になります。仕事でなく環境暴露が原因となった悪性胸膜中皮腫の報告もあります。代表的なアスベスト関連呼吸器疾患は悪性胸膜中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚、石綿肺です。なお胸膜の一部が肥厚する石綿胸膜斑(アスベストプラーク)は、“過去にアスベストを吸入した”というサインにはなりますが、症状をひきおこしたり、呼吸機能が低下することはなく、病的な意義はありません。悪性胸膜中皮腫、石綿による肺がん、石綿肺及びびまん性胸膜肥厚は、条件を満たせば労災保険給付や石綿健康被害救済制度の対象となります(環境再生保全機構)。
アスベスト関連の主な呼吸器疾患
- 悪性胸膜中皮腫
肺はろっ骨・背骨・横隔膜・肋間筋(ろっ骨とろっ骨の間の筋肉)などからなる胸腔と呼ばれる箱の中におさまった状態で存在します。この胸腔の内面は壁側胸膜(へきそくきょうまく)、肺の表面は臓側胸膜(ぞうそくきょうまく)という薄い膜に覆われています。胸膜を構成する細胞の一つが中皮細胞です。
アスベストの吸入から20年から30年以上の長期の経過を経て壁側胸膜の中皮細胞が腫瘍化したものを悪性胸膜中皮腫とよびます。胸膜に生じる「がん」と考えて差し支えありません。腫瘍化により、胸腔に胸水とよばれる液体が溜まったり、胸膜が厚くなり呼吸困難や胸部圧迫感を生じます。また、胸壁への浸潤に伴う胸痛が出現し、腫瘍の存在により痩せの進行なども見られます。ただ、これらの症状は進行してから出現することが多く、発見や診断が難しいケースが多いのが実情です。
診断のために胸水を採取して細胞を調べたり、CT下生検や胸腔鏡による胸膜生検(https://www.premedi.co.jp/お医者さんオンライン/h01540/)をおこないます。肺がんと異なり、肺の外に病変があるため気管支鏡検査で診断をすることは困難です。
治療は胸水を除去後に、胸水の再貯留を防ぐ為の癒着療法や、抗がん剤や免疫療法による全身化学療法を実施する場合があります。病変がごく一部に限局している場合、手術により外科的に摘出することもあります。全身状態の不良な場合は緩和療法のみを実施することもあります。 - びまん性胸膜肥厚
悪性胸膜中皮腫と同様にアスベスト吸入により胸水の貯留や広い範囲での胸膜の肥厚がみられますが、中皮の腫瘍化が見られないものです。胸水・胸膜肥厚にともない呼吸困難、体重減少などが生じます。 - 肺がん
肺がんの多くはアスベストとは無関係に発症しますが、アスベストの暴露が多い(暴露濃度×暴露期間)と肺がん発症のリスクが高くなることが知られています。また、喫煙をしていると相乗効果で肺がん発症のリスクが高くなり、アスベスト暴露ない非喫煙者と比較して喫煙のみでは10倍、アスベスト暴露のみで5倍、喫煙をするアスベスト暴露者では50倍の肺がん発症リスクがあるといわれています。アスベスト暴露から肺がん発症までは30~40年の潜伏期間があります。
診断・治療はアスベスト暴露のない通常の肺がんに準じて行います。 - 石綿肺
吸入した大量のアスベスト(石綿)が、長期に肺の内部で沈着し、炎症や線維化が起こり、肺の機能が除々に低下していく疾患です。原因のある間質性肺炎・肺線維症のうちのひとつです。長期に大量のアスベスト暴露により発症するため、石綿規制により、本邦では新規の発症はほぼなくなっています。
他の間質性肺炎と同様に初期には痰をともなわない咳(乾いた咳)、息切れが出現し、除々に呼吸不全が進行していきます。病状が進行し酸素を充分に取り込めなくなった場合は、在宅酸素療法を実施する場合もあります。他の間質性肺炎で使用するステロイド治療は効果がないと言われています。
アスベスト吸入に関しての対応
列挙した呼吸器疾患はいずれもアスベストを長期に持続性に吸入した場合に発症する確率が高くなりますが、発症には個人差や喫煙歴も関連しているとされ、同じ条件ですべての人が発症するわけではありません。また列挙した疾患がすべてアスベストのみで発症するわけではなく、他の要因や原因不明で突然発症することもあるのは他の病気と何ら変わりはありません。
これらの疾患についてご心配な場合は、まずご自分の生活環境、職場環境や、居住地域の環境についての正確な情報を公的機関や勤務先、業界団体等を通じて入手し、その上で対応を検討されるのがよいでしょう。
当センターは、「石綿業務」「粉じん業務」にかかる健康管理手帳所持者を対象とした健診を実施する指定医療機関です。呼吸器疾患の専門病院として、アスベスト専門外来を設置するとともに、アスベスト専門検診などを実施し、アスベストに起因する中皮腫等の疾病の治療などアスベスト疾患対策に取り組んでいます。自覚症状はないがアスベスト関連疾患にかかっていないか心配な方は、アスベスト専門検診を受診ください。