肺がんの診断
◆ 迅速な診断と治療
肺がんは進行性の疾患であり、迅速な診断と治療が必要です。ほとんどの方は、初めていらしてから、2週間もあれば、種々の検査を受けていただいた上で治療方針を決めることができます。内科的な治療であれば、その数日後には治療を開始します。
◆ 確実な診断
肺がんは、組織のタイプ(腺がん、扁平上皮がん、小細胞がん等)、がん細胞がもった遺伝子変異の状況(EGFR ※1、ALK ※2)、病気の広がり(病期、ステージ)、患者さんの元気さ、合併する病気等によって治療方針が異なります。技術と知識をいかして気管支鏡検査・CT・MRI・骨シンチグラム(※3)といった検査を行い、確実な診断を心がけています。
受診当初は、不安を抱えながら種々の検査を受けていただくことになりますので、心身の負担が大きいかと思いますが、個別の治療のためには正確な検査結果が必要となりますので、ひとつずつ進めていきましょう。
※1 EGFR遺伝子変異
肺がんの細胞の表面にはEGFR(上皮成長因子受容体)と呼ばれるタンパク質がたくさん発現していて、がん細胞が増殖するのに必要な信号を細胞内に伝えています。この遺伝子の一部(チロシンキナーゼ部位)に変異があると、増殖の信号がなくても常に指令があるときと同じ状態になり、がん細胞が無秩序に増殖を続けます。
※2 ALK遺伝子変異
ALK遺伝子と他の遺伝子が融合してできた遺伝子で、肺がんの原因となる異常な遺伝子のひとつです。ALK遺伝子は細胞の増殖に関係する遺伝子で、この遺伝子からできるタンパク質は「細胞を増殖させなさい」という指令を受けると一時的に活性化して、必要な場所に必要なだけ細胞を増殖させます。
※3 骨シンチグラム(核医学検査)
画像診断法の一つで、体内に投与した放射性同位元素から放出される放射線を検出し、その分布を画像化したものです。
【病期分類】
がん細胞の広がり具合で病気の進行をI~IV期の病期に分類します。I~III期は、さらにその病期の中で軽いものをA、重いものをBともう一段階細分化します。 |
I期 |
がんが肺の中にとどまっており、リンパ節や他の臓器に転移を認めない段階。 |
II期 |
原発巣のがんは肺内にとどまっており、同側の肺門リンパ節には転移を認めるが、他の臓器には転移を認めない段階。 |
III期 |
原発巣のがんが肺を越えて隣接臓器に浸潤しているか、縦隔リンパ節に転移を認めるが、他の臓器には転移を認めない段階。両方あってもIII期です。 |
IV期 |
原発巣の他に、脳、肝臓、骨、副腎などの臓器に転移(遠隔転移)がある場合。 |
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◆ 確実な検査
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【気管支鏡検査】
気管支に細くて軟らかい内視鏡を口や鼻から挿入し、気管支の中を観察したり、肺や気管支の組織、細胞や細菌を取って調べる検査です。 |
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【CT検査】
X線を使って身体の断面を撮影する検査です。
死角になる部分が少ないのが特徴で、非常に淡い陰影・小型病変も発見可能です。
病変の存在診断において、最も有効な検査方法です。
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【CTガイド下生検】
体内にある腫瘍などにCT画像を利用して正確に針を刺して組織を採取し、調べる検査です。
CT画像を利用するため、小さな深部にある腫瘍でも正確に生検することが可能です。
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【MRI検査】
強力な磁石でできた筒の中に入り、磁気の力を利用して体の臓器や血管を撮影する検査です。
CTと異なり被ばくはありません。
肺がんと結核腫の鑑別など、内部構造の判断に有用です。 |
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【核医学検査(RI検査)】
放射線同位元素を用いて病巣部を画像化する検査で、遠隔転移の状態をスクリーニングするのに有用です。
テクネシウムなどを用います。 |
肺がんの治療
◆ 診断から治療へ
主治医を中心に、診断・治療に関わる呼吸器内科・呼吸器外科・放射線科・病理診断の医師が選択可能な治療法について検討した上で、総合的に評価して最適な治療法を提案します。
最終的には、主治医と患者さんとが話し合って治療方針を決めていきます。
◆ 体に負担の少ない胸腔鏡下手術に力を入れています
肺がんの治療においては、「低侵襲(患者さんの体への負担がより少ない)手術」を特に心がけています。
その最大の武器が胸腔鏡です。肺がんをはじめとした呼吸器外科の手術は、その大半を胸腔鏡下手術によっています。
◆ 胸腔鏡下手術の実績
当病院では、1991年から胸腔鏡下手術を開始し、現在年間300例以上の胸腔鏡下手術を行っていますが、中でも原発性肺がんに対する胸腔鏡下肺葉切除を100例以上施行しています。そのうち80%以上の方に完全胸腔鏡下に手術を行い、20%弱の方では安全のために傷を少し拡げ、そこから直接目で見る方法も併用して手術を行っています。
◆ 胸腔鏡下手術
・手術の方法
1. 胸部に穴を開けてファイバーを胸の中に入れ、その先についたCCDカメラで胸腔の内部を観察する。
2. 別に開けた穴から処置具を差し込んで手術を行う。 |
 胸腔鏡下手術の道具 |
・胸腔鏡下手術の場面

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高エネルギー放射線を照射してがんを退治する治療法です。
当病院の放射線治療装置(リニアック)は病気の種類や場所(深さ)によってエネルギー強度を任意に変更し、X線、電子線などの放射線を使い分けて治療が行えます。
◆ 当病院の放射線治療装置の特徴
- ☆ 定位放射線治療(SRT ※1)と強度変調放射線治療(IMRT ※2)が可能な装置です。
- ☆ 同室内にあるCTで撮影した画像を基に立てた治療計画に基づき治療を行います。
- ☆ 呼吸同期の放射線治療設備(※3)を備えています。
- ☆ 治療の際にもCTでモニターしながら照射を行います。
(※1)SRT
均一な強さの放射線を多方向から照射し、病変部分に放射線を集中させます。
(※2)IMRT
SRTの特徴に加えて放射線の強さを不均一にできるため、様々な強さの放射線を同時に用いることにより、SRT以上に複雑な照射が可能です。
(※3)呼吸同期の放射線治療設備
CTを使って位置合わせを行っても、肺がんの場合は、呼吸により腫瘍が動き、ずれが生じます。当病院の放射線治療装置(リニアック)は、呼吸同期の放射線治療設備も備えていますので、まず、治療計画の段階で腫瘍の呼吸性移動の程度を把握し、実際の放射線治療時には、呼吸をモニターしながら呼気時又は吸気時に照射することで、腫瘍以外の肺への照射を抑えることができます。
 放射線治療装置(リニアック)
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◆ 多様な化学療法の提供
外来での通院治療(日帰り)への対応も進み、社会生活を維持しながらの抗がん剤治療を目指しています。
肺がん領域は治療法の進歩もめざましく、毎年新しい抗がん剤が導入されています。
肺がん包括診療センターでは、現在国内で承認されている全ての抗がん剤を使用することができ、さらに新薬の臨床試験も多く実施しています。
がん薬物療法の専門医師や専門看護師、薬剤師を中心に、安全な治療を提供しています。
◆ がん薬物療法レジメン
詳細は薬剤科のページをご参照ください。
◆ 新規薬剤の開発治験及び臨床試験治療の実施
最新のガイドラインに基づいた標準的治療を提供することをベースとして、さらに新規薬剤の開発治験やがん治療専門施設による多施設共同試験等、多数の臨床試験治療を実施しています。

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安全性
正確な診断と高い効果の治療を安全に行うため、初めて病院に受診された日から、安全な医療のための情報収集を行っています。特に気管支鏡検査、CTガイド下生検等の体に負担の大きい検査や、手術、放射線照射、化学療法等の治療には一定の合併症を併発するリスクがありますので、患者さんごとにリスクの評価を行い、皆さんに情報を共有していただきながら方針を決めていきます。
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